将来は、有料老人ホームを終の棲家としたいと考えている人もいるかも知れません。
確かに、食事から身の回りの世話まですべて行ってくれる有料老人ホームは、将来に不安をかかえる一人暮らしの人などにはとても魅力的に感じるかも知れません。
しかし、せっかく有料老人ホームに入居したとしても、終の棲家とはなりえない可能性もあるのです。
なぜなら、ここ数年で有料老人ホームの倒産件数が一気に増えているからです。
有料老人ホームが倒産してしまうと、そこを追い出されてしまう可能性があります。
有料老人ホームに入居するには、まとまった一時金が必要になるために、自宅を売却して入居する人も少なくありません。
そんな状況で老人ホームを追い出されてしまったら、帰る家がないということになってしまうのです。
2016年以降は毎年100件以上の老人福祉・介護事業が倒産しています
東京商工リサーチによりますと、ここ数年は毎年100件以上の老人福祉・介護事業が倒産をしています。
しかも、その数がここ数年で一気に伸びています。
2011年にはわずか19件に過ぎなかった倒産件数が、2016年は108件、2017年は111件、2018年は106件と、ここ数年は毎年のように100件を超えています。
参考:2018年「老人福祉・介護事業」倒産状況、倒産件数が106件、7年ぶりに前年を下回るも高止まり
人手不足による人件費の上昇などが経営を悪化させているようです。
これらの老人福祉・介護事業の中には有料老人ホームも含まれ、2018年には14件の老人ホームが倒産しています。
有料老人ホームはあくまでの民営ですから、国や自治体が運営している施設とは異なり、経営状況が悪くなれば倒産の可能性が高くなります。
つまり、有料老人ホームが終の棲家となる保証などどこにもないのです。
入居時には誰もが考えもしなかった有料老人ホームの倒産という現実が、全国各地で起こっているという事実を受け止めなければなりません。
満室にもかかわらず老人ホームが倒産してしまう可能性があります
有料老人ホームを運営していくにあたっては、入居率が80%を下回ると赤字になるといわれています。
倒産のリスクを考えた場合、あまり空室の多い有料老人ホームは避けた方がいいということがいえます。
しかし、最近では有料老人ホームの倒産リスクを、単純に入居率だけでは判断しにくくなっています。
なぜなら、満室であるにもかかわらず、経営が厳しくなっている有料老人ホームも少なくないからです。
満室なのに、なぜ経営危機になるのか不思議に思う人もいるかと思いますが、その原因はお年寄りがみんな長生きになったことにあるのです。
入居者が長生きをすることによって、有料老人ホームへの1人あたりの入居期間が長くなります。
1人あたりの入居期間が長くなるということは、新しい入居者がなかなか入ってきにくい状況ということがいえます。
新しい入居者が入ってこないとなると、入居一時金を受け取ることができませんので、たとえ満室であっても経営状態が悪化してしまうのです。
入居一時金というのは、入居費用の前払い的な意味がありますので、当初の想定期間よりも長く入居をされてしまうと採算が合わなくなってしまうのです。
有料老人ホームが倒産するとどうなってしまうのか?
有料老人ホームが倒産してしまったとしても、必ずしも追い出されてしまうということではありません。
別の会社が経営を引き継いでそのまま運営されることもあるからです。
ただし、その場合であっても、経営者が変わったことによって、サービスの質が下がってしまったりすることもあります。
あきらかに食事の内容が落ちてしまったり、それまで週3回だった入浴が2回に減らされてしまったりということも実際にあるようです。
また、さらなる経営悪化を防ぐために、これまで無料であったサービスが有料になってしまったりすることもあるようです。
つまり、自分が気に入って入居した老人ホームであるにもかかわらず、経営者が変わったとたんに、サービス的にまったく別の施設になってしまう可能性もあるということです。
有料老人ホームが倒産することで最悪のパターンとなるのは、強制的に退去させられてしまうケースです。
自宅を処分して有料老人ホームに入居した人の場合には、退去させられたあとに帰る場所がありませんので、かなり深刻な状況になります。
介護保険サービスを利用している老人ホームの場合は、ケアプランを作成した事業者として引き継ぎ先を確保する義務があります。
しかし、同じようなケアを継続できる施設が必ずしも見つかるとは限りません。
仮に次の施設が見つかったとしても、引っ越しにかかる費用などが補償されずに自腹になってしまうこともありますので、想定外の余分な出費がかさむことになります。
入居時に支払った一時金は返ってくるのか?
有料老人ホームに入居するには、高額な入居一時金がかかるのが普通です。
施設によっては数千万円もの一時金を入居時に支払うことになりますので、倒産して退居させられることになった場合は、そのお金がどうなってしまうのか不安になるに違いありません。
もちろん、入居時にかかる一時金は、利用料の前払い的な意味がありますので、長く入居していれば預けたお金はどんどん償却されていって額が減っていきます。
しかし、入居して間もない人の場合だと、預けた一時金のかなりの割合が残っていると思われますので、倒産によって退去を余儀なくされたときに返還されるのかどうかはとても気になると思います。
2006年以降に開設された有料老人ホームの場合は、「入居一時金の保全措置」が義務付けられています。
これは、老人ホームにかわって銀行や保険会社などが入居一時金の未償却部分に関して返還をしてくれるというもので、最高で500万円まで返還してもらうことが可能です。
しかし、「入居一時金の保全措置」が義務付けられる2006年以前開設した老人ホームに関しては、保全措置をとっていないところもありますので注意が必要です。
また、倒産後に経営者が変わったときに、あらたに入所一時金を取られるケースもあります。
前の経営者との契約を引き継がないという条件で経営者が変わった場合です。
前の経営者には入所一時金を踏み倒され、さらに新しい経営者から再び入所一時金を請求されるとなると、まさに踏んだり蹴ったりという状況になってしまいます。
こうしたことになる可能性があるということを冷静に考えてみた場合、自宅を売却してまで老人ホームに入居するというのは、かなりリスクがあるということがお分かりになるかと思います。
最悪の場合は、一文無しになってしまいます。
倒産の可能性の少ない有料老人ホームはどうやって見分ける?
有料老人ホームへの入居を検討するときには、倒産のリスクを頭に入れておかなければなりませんが、具体的にはどのような施設を選べば安全なのでしょうか?
民間で運営している以上、100%倒産しない有料老人ホームというのはありませんが、入居の際には少しでも倒産の可能性の少ない施設を選びたいものです。
そのために、まず確認すべきなのは入居率です。
先ほども書きましたように、入居率が80%以下になると有料老人ホームの経営は厳しくなるといわれています。
なるべく満室に近い状態の老人ホームを選ぶようにすることで、倒産のリスクを減らすことができるでしょう。
もちろん、満室であっても経営が厳しくなってしまう有料老人ホームもありますから、入居率が80%以上であれば絶対に安全ということではありませんが、1つの目安として頭に入れておくといいでしょう。
次に、職員の定着率です。
職員の平均勤務年数が3年未満の有料老人ホームも避けた方がいいでしょう。
職員の離職率が高いということは、賃金が低かったり1人の職員に多くの業務を負担させていたりする可能性があります。
つまり、賃金が低かったり少ない人数でやりくりさせていたりするということは、経営状態がかなり悪化していると判断できるわけです。
外部の人間が有料老人ホームの経営状態を正確に判断するというのは容易ではありませんが、最低でもここで紹介した入居率と職員の離職率の2点を確認してから入居すべきかどうかを考えるようにした方がいいでしょう。