高齢者施設

特別養護老人ホームは思っている以上に空き室がある?~なぜ36.6万人も待機者がいるのか?

特別養護老人ホームになかなか入居できない待機者が、2017年3月の厚生労働省の発表だと36万6千人もいるそうです。

この数字だけを見ると、どこの特別養護老人ホームも満室状態であると誰もが思うに違いありません。

しかし、現実はそうではありません。

実は、特別養護老人ホームの四分の一にあたる26%の施設では、ベッドに空きがあるのです。

いったいなぜ、待機者が36万6千人もいる一方で、空きのある特別養護老人ホームが26%もあるのでしょうか?

介護職員の不足が特別養護老人ホームの空室の原因の1つ

空室があるにもかかわらず、特別養護老人ホームの待機者が36万6千人もいる理由の1つとして、介護職員の不足があります。

入居者のためのベッドは空いているにもかかわらず、介護をする人間が足りないのです。

特別養護老人ホームの場合は、要介護者3人に対して1人の割合で介護・看護職員を配置しなければなりませんが、満室にしてしまうとその人数を満たすことができなくなってしまうわけです。

そのため、ベッドは空いているにもかかわらず、入居者を受け入れることのできない施設がたくさん存在するのです。

なぜ介護職員の数が不足しているのか?

介護職員の数が少ないのであれば、採用を増やせばいいと考える人もいるかも知れませんが、そう単純にはいきません。

どこの特別養護老人ホームでも、介護職員の採用に四苦八苦しているというのが現実なのです。

つまり、介護職員のなり手がいないのです。

その理由として、仕事がきつい割には賃金が低いという点があげられます。

また、社会的評価が低いイメージがあるために、職業として魅力を感じないという人も多いのでしょう。

ちなみに、介護職員の平均給与は22万円ほどで、全産業の月給平均33万円とくらべると、だいぶ低くなっています。

なぜ介護職員の給与は他の職種にくらべて低いのか?

特別養護老人ホームで働く介護職員の仕事はハードなのに、なぜ給与は他の職種にくらべて低いのでしょうか?

施設側が暴利をむさぼって、介護職員を低賃金で働かせているというわけではありません。

特別養護老人ホームを運営するためのコストは6割~7割が人件費だといわれています。

それほど人件費の比率が高いにもかかわらず、給与水準が低いということは、特別養護老人ホームに入ってくるお金そのものが多くはないという現実があるわけです。

特別養護老人ホームにおける介護サービスの費用は、介護保険と公費(税金)で9割を負担する仕組みになっています。

そのため、どうしても財源には限りがあります。

もし、介護職員の給与を他の産業と同等の30万円程度まで引き上げると仮定した場合、1兆4千億円もの予算が必要になるといわれています。

つまり、現状では介護職員の給与をあげたくても容易にはあげることができないという現実があるわけです。

勤続10年以上の介護福祉士の給与が8万円アップになります

これから超高齢化社会をむかえる日本にとって、介護職員不足は深刻な問題となります。

そういった状況を、政府もただ指をくわえてみているわけではありません。

約1000億円規模の財源を投入して、勤続10年以上のベテラン介護福祉士に対して、2019年10月より平均8万円の賃上げを行うことを決定しました。

介護福祉士の賃金が8万円アップということになれば、看護師や准看護師とくらべても遜色ないレベルの給与水準ということになります。

介護職員の離職は年間で10万人に及ぶといわれていますが、今回のベテラン介護福祉士に対する賃上げによって、離職に歯止めがかかることが期待されています。

特別養護老人ホームへの需要が少ないために空きが生じている施設もあります

介護職員の数が足りないことで、特別養護老人ホームに入居したくてもできない待機者が多く存在することは事実ですが、26%もの施設に空きがあるのは、それだけが理由ではありません。

地域によっては、介護職員の人数は足りているのに、入居者の需要そのものが少ないことが原因になっているところもあります。

たまたま同じ地域に複数の介護施設があったり、高齢化のピークを過ぎてしまった地域だったりすることで、ベッドに空きが生じてしまっているわけです。

また、待機者数を減らすために、2015年に施行された改正介護保険法によって特別養護老人ホームへの入居条件が要介護3以上となりましたが、皮肉なことにそのことが原因で空き室が出てしまっている施設もあるのです。

そういった入居者需要の少ない地域では、要介護1や要介護2の人でも入居することが可能だったりするようです。

それでも入居者が埋まらずに、病院に営業に出向いているような施設も実際にあるのです。

このように、ベッドに空きがあっていつでも入居可能な特別養護老人ホームがある一方で、全国では36万6千人もの人が入居できずに待機させられているわけです。

単純に、特別養護老人ホームにはなかなか入居できないという先入観は持たない方がよさそうです。

ケアマネの思い込みによって空きが埋まらないケースもあります

一部の特別養護老人ホームに空きが出てしまっている原因の1つに、ケアマネによる思い込みもあるといわれています。

つまり、ケアマネの頭の中には「特養はどうせ満室で入居できない」という認識ができてしまっているわけです。

担当のケアマネが、地域の特別養護老人ホームの入居状況をしっかりと把握して案内できていれば、ベッドが空いているにもかかわらず待機させられるといったことは起こらなくなる可能性があります。

しかし、ケアマネの仕事というのは多岐にわたり、ケアマネ自身も多忙なことが多いために、1人の方のケアプランを作成するために多くの時間をかけられないという現実もあるでしょう。

介護福祉士だけでなく、今後はケアマネへの待遇改善も必要になってくるかも知れません。

順番が回ってきても入居を断る待機者が増えています

特別養護老人ホームでは多くの待機者がいる一方で、ベッドに空きのある施設も多いわけですが、その原因の1つに待機者の入居拒否があります。

入居を拒否する理由は、自宅からの距離が遠いということです。

空きが出たことを待機者に告知しても、施設が自宅から遠方にあるということでお断りする人が少なくないのです。

特別養護老人ホームは、一度入居してしまうと転居が難しいために、家族や親族にとっては近場の施設が空くまで待ちたいという気持ちがあるのだと思います。

最近では、東京23区内の待機者のうち約半数の人が、順番が回ってきても辞退してしまうそうです。

そのため、入居待ちの人を「待機者」と呼ばずに、あえて「申込者」と呼ぶようにしているところもあります。

辞退をするのならば最初から申し込みをしなければいいように思いますが、近場の施設に空きがでればラッキーといった、安易な気持ちで申し込みをする人が多いのでしょう。

特別養護老人ホームの待機者数が36万6千人というのは、そういった安易な気持ちで申し込みをした人の数も含んでいるわけです。

このようなさまざまな理由により、特別養護老人ホームの待機者が36万6千人もいる一方で、ベッドに空きのある施設もたくさんあるというミスマッチが起きてしまっているわけです。

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