お墓を建てるときには、永代使用料というものを墓地管理者に支払うことになります。
永代使用料という言葉のニュアンスから、お墓を建てるときに一度支払えば、永久にお墓をそこに残しておけると思いがちです。
しかし、実際にはお墓をずっとそこに残せるという保証はまったくないのです。
たとえば、あなたが永代使用料を支払って親のお墓を建てたとしても、将来的にはそのお墓がなくなってしまう可能性があるのです。
永代使用料を支払ったのに、なぜ永久にそのお墓を残すことができない可能性があるのでしょうか?
お墓を買うということは永代使用料を支払うことを意味します
よく「お墓を買う」という言葉を耳にします。
しかし、墓地というのは一般の不動産のように不動産登記をして売買をするというとはできません。
土地そのものを売買するのではなく、お金を払ってそのお墓をずっと使用することができる権利を買うわけです。
その権利のことを、一般に永代使用料と呼んでいるわけです。
ですから、墓地そのものはあくまでも墓地管理者のものであり、そこを使わせていただくための権利を永代使用料として買うことになります。
ですから、墓地を買ったといっても、あくまでもその土地の所有者は墓地管理者ですから、自分の土地にはならないのです。
永代使用料を支払っても厳密には使用期限があります
土地が自分のものにならなくても、永代にわたって使用できるのであれば、結局は土地が自分のものになったのと同じではないかと思う人もいることでしょう。
あなたを含めた子孫が永代にわたってお墓をしっかりと継承していくことができるのであれば、その考えは間違いではありません。
しかし、あなたの子孫が永代にわたってお墓を管理し続けてくれるという保証はどこにもないのです。
少子化の問題が取りざたされていますが、一生独身のままで子孫を残さない人もこれからどんどん増えて行くことでしょう。
そういった時代において、自分の子孫がお墓を永代にわたって管理してくれると確信できる人などいないでしょう。
あなたがせっかく永代使用料を支払って建てた親のお墓も、将来的に継承者がいなくなった時点で無縁墓ということになってしまいます。
無縁墓になってしまうと、お墓は取り壊されてしまいます。
そして、更地になったあとに別の人のお墓として再利用されることになるのです。
こういった決まりがあるために、永代使用料を支払っても実質的には使用期限があるということがいえるわけです。
墓地の永代使用権が取り消される条件とは?
永代使用料を支払っても、お墓を継承できなくなった時点で無縁墓として整理されてしまうわけですが、どういった条件を満たしたときに無縁墓と判断されるのでしょうか?
原則的には、「使用規則に違反したとき」ということになります。
使用規則はそれぞれの墓地管理者によって異なりますが、そのなかに「〇年以上管理料を収めない場合」とか「墓地使用者が〇年以上不明になり、相続または継承の申し出がない場合」といったようなことが書かれています。
これらに違反をした時点で、無縁墓と判断されて、お墓は取り壊されてしまうことになります。
つまり、お墓の永代使用権というのは、あくまでも使用規則に違反をしない限り永代にわたって使用できますという意味であり、違反となってしまった時点でその権利を失うことになります。
墓地管理者としても、誰も継承者のいなくなってしまった墓地をそのまま放置しておくわけにはいきませんので、これは致し方のない措置といえるでしょう。
永代使用料はいかなる理由があっても返還されることはありません
お墓を建てるときにおさめた永代使用料は、その権利を返還したり破棄したりしても戻ってくることはありません。
また、他の人に貸したり譲渡をしたりすることも基本的にはできません。
さらにお墓を継承することができる人も限られています。
永代使用権は原則として1人のひとに引き継がれますが、三親等以内の親族や同じ姓を名乗る者といったルールがありますので、誰もが継承をすることができるというわけではありません。
そういった意味では、お墓の永代使用権というのは、「永代」という名称にはなっていますが、使用者側の権利は非常に弱いものであるということがいえます。
無縁墓はどのような流れで整理されることになるのか?
墓地の管理料を数年にわたっておさめなかったり、墓地使用者が数年間にわたって不明となってしまったりした場合には、無縁墓ということで取り壊されることになってしまうわけですが、どういった流れで実行されるのでしょうか?
継承者がなく無縁墓となってしまった場合は、墓地管理者側からの改葬という形で、遺骨は墓地内の無縁供養塔などに合祀されることになります。
そのための最初の手続きとして行われるのが、使用者や縁故者への呼びかけです。
官報に記載したり、お墓に立て看板を立てたりして、「無縁墳墓の改葬公告」という形で、呼びかけをするわけです。
この公告には、たとえば「1年以内に申し出がない場合には無縁仏として改葬させていただきます」といったようなことが書かれています。
そして、期限が来ても申し出がなかった場合に、改葬という手続きが取られることになります。
改葬によって敷地内の無縁供養塔などに合祀されたあと、お墓は取り壊されて更地にされることになります。
もともとは本当の意味で永代にわたって使用できる権利でした
現在のお墓は、永代使用料を支払っても継承者がいなくなった時点で整理されてしまいますが、かつては本当の意味で永代にわたって使用できるのが普通でした。
つまり、「使用権」ではなく、「所有権」であったわけです。
当時は、いわゆる改葬の手続きに関する規定がなかったために、本当の意味で「永代」にわたって使用することができました。
それが、時代とともに「所有権」から「使用権」に変わっていくことになります。
大正12年4月に開園した「多摩霊園」が、最初の「使用権」の形式を採用した霊園だといわれています。
その後、昭和7年に改葬手続きが規定されることになり、実質的に「永代」が保証されなくなったわけです。
永代使用料の相場はどれくらいになるのか?
継承者がいる間だけ墓地を使わせてもらうという意味合いの永代使用料ですが、実際にはどれくらいが相場になるのでしょうか?
永代使用料は地域によっても相場が変わりますし、公営の墓地と民営の墓地でも大きな差があります。
たとえば、東京都が運営している公営の霊園であっても、青山霊園だと1平方メートルあたり280万円ほどしますし、八柱霊園だと1平方メートルあたり19万円ほどです。
青山霊園にお墓を建てようと思った場合、1.6平方メートルの土地使用料だけで450万円にもなってしまいます。
永代使用料はいかなる理由があっても返還されませんし、継承者がいなくなった時点でお墓は整理されてしまいますので、永代使用料の額としてどれくらいの額が妥当なのかは慎重に考える必要があります。
東京都内の永代使用料の平均的な相場は、23区内の場合1平方メートルあたり150万円前後になります。
23区以外だと、40万円前後とだいぶ安くなります。
地方に行くとさらに永代使用料の相場は下がって、1平方メートルあたり10万円以下のところもたくさんあります。
しかし、地方にいくと1区画あたりの面積も大きくなりますので、実際に支払う永代使用料の額は20万円~30万円にはなってしまうと思われます。
永代使用料と永代供養はまったく意味がことなります
「永代使用料」のほかに「永代供養」という言葉もよく耳にする機会があると思います。
どちらも、「永代」という単語が使われていますが、これらの2つはまったく意味がことなります。
永代使用料というのは、墓地を使うための権利料のことを指すのに対して、永代供養とういのは、お墓参りができない人の代わりに、お寺や霊園などが永代にわたって供養をしてくれるというものです。
永代供養のためのお墓は、「永代供養墓」と呼ばれ、他の人と同じ墓や納骨堂に安置されることになります。
合祀墓や合同墓などと呼ばれることもあります。
先祖代々のお墓を守り続けることが困難になりつつある時代
かつては「家」というものが家族の中心にあり、そしてその家族ためのお墓として「〇〇家の墓」というものがあったわけです。
しかし、現代では親子三代が一緒に住むような「家」は非常に少なくなっており、「家」という概念そのものがなくなりつつあります。
「家」という概念がなくなってしまえば、「〇〇家の墓」という形式もあまり意味のないものになってしまいます。
少子化の問題であったり、成長した子どもが生まれ故郷に戻ってこなくなったりして、先祖代々のお墓のある地域に子孫が誰も住まなくなってしまえば、「〇〇家の墓」を維持管理していくというのは困難になってしまうに違いありません。
そのため、最近では「墓じまい」をする人も多くなっているのです。
そういった意味では、永代使用料の「永代」という部分は、現在ではほとんど意味がなくなってしまっているといえるでしょう。