「みなし墓地」という言葉を耳にしたことがある人もいることでしょう。
「みなし墓地」というのは、いったいどういった墓地なのでしょうか?
墓地というのは、墓埋法(墓地、埋葬等に関する法律)という法律によって、都道府県知事の許可を受けなければ利用できないことになっています。
しかし、この墓埋法が制定されたのは、昭和23年になります。
墓地というのは、墓埋法が制定されるはるか以前から利用されていたところも少なくありません。
古いものだと、江戸時代から存在しているところもあります。
そういった墓埋法ができる以前から利用されていた墓地で、すでに行政から何らかの許可を受けている墓地は、あらたに墓埋法にもとづいて許可を取る必要はありません。
そのままの状態で墓地とみなすという意味から、「みなし墓地」と呼ばれているわけです。
墓地、埋葬等に関する法律というのはどのような法律なのか?
昭和23年に制定された墓埋法(墓地、埋葬等に関する法律)という法律によって定められています。
埋墓法が制定された目的として、第1条に次のように書かれています。
「この法律は、墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とする」
墓埋法によって定められた代表的な決め事をいくつか抜粋してみますと、以下のようになります。
- 埋葬・火葬は死亡または死産のあと24時間をすぎないと行ってはいけない
- 埋葬または焼骨の埋葬は墓地以外の場所に行ってはならない
- 埋葬・火葬・改葬を行うときには、市区町村長の許可を受けなければならない
- 死体の埋葬または火葬を行う者がいないとき、または判明しないときは死亡地の市区町村長がそれを行わなければならない
- 墓地・納骨堂・火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。
墓地を経営する者が、この墓埋法で決められたルールを守らないと6ヵ月以下の懲役または5千円以下の罰金が科せられます。
また、個人が24時間以内に埋葬や火葬をしたり、墓地以外のところに埋葬したりといった違反をすると、千円以下の罰金または拘留もしくは科料に科せられます。
参考:墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年5月31日法律第48号)
みなし墓地に関係するのは墓埋法の10条と26条です
墓地や納骨堂などを新たに作るには、墓埋法の10条にもとづいて都道府県知事の許可を受ける必要があります。
なぜなら、墓埋法の10条に次のような条文があるからです。
「墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。」
しかし、先ほども書きましたように墓埋法ができたのは昭和23年です。
当然のことながら、この法律ができる以前からも全国にはたくさんの墓地がありました。
墓地は、墓埋法の10条にもとづいて都道府県知事の許可を受けなければならないとはいっても、これらの古くからある墓地のすべてがあらたに許可を取っていたのでは大変です。
そこで、墓埋法ができる以前からある墓地で、すでに行政から許可を受けている場合に限り、あらたに許可を取らなくても「墓地とみなす」ということになったのです。
その根拠となるのは、墓埋法26条の以下の条文です。
「この法律施行の際現に従前の命令の規定により都道府県知事の許可をうけて墓地、納骨堂又は火葬場を経営している者は、この法律の規定により、それぞれ、その許可をうけたものとみなす。」
条文の最後に、しっかりと「みなす」という文字が書かれていることが確認できると思います。
こうして、墓埋法ができる以前の墓地で、すでに行政の許可を受けているところを「みなし墓地」と呼ぶようになったのです。
現状は無許可であっても「みなし墓地」となっています
「みなし墓地」は、墓埋法ができる以前からあった墓地で、なおかつ過去に行政からなんらかの許可を受けていることを証明できる墓地のことをいいます。
ですから、古くからある墓地として利用されていたころが、すべて「みなし墓地」というわけではありません。
実際には、無許可の墓地もたくさんあるといわれています。
それらの墓地が過去に許可を受けているかどうかをすべて確認するというのは、行政としても困難なため、無許可の墓地も含めて「みなし墓地」と同じ扱いになってしまっているのが現状です。
そういった意味では、埋墓法以前からある古い墓地に関しては、許可のあるなしにかかわらず「みなし墓地」と呼んでいることが多いようです。
墓地台帳に記録がなければ無許可の墓地ということになります
市区町村には、墓地台帳というものがあります。
これは、自治体によって経営許可のだされた墓地や納骨堂などを記録しておくための台帳です。
この台帳に記録が残っていない墓地は、基本的に無許可の墓地ということになります。
これらの無許可の墓地は、厳密にいえば埋墓法違反ということになってしまいます。
しかし、墓地台帳に記録がないからといって、すでにあるお墓を撤去させることまでは行政もしません。
そのようなお墓が全国には無数にあるわけですが、そういったお墓も含めて「みなし墓地」と一般には読んでいるわけです。
みなし墓地にあらたにお墓を建てることは可能なのか?
私有地にある、いわゆる個人墓地にあらたにお墓を建てることはできません。
古くからのお墓のなかには、私有地に建てられている無許可の個人墓地もありますが、行政としても法律が確立される前からあるお墓ということで、例外的に認めているにすぎません。
そのため、こうした個人墓地にはあらたなお墓を建てることはできないのです。
それでは、お寺や集落などにある「みなし墓地」にあらたにお墓を建てることはできるのでしょうか?
「みなし墓地」であっても、埋墓法ができた昭和23年より前に行政の許可を受けており、なおかつ墓地台帳に記録が残っているところであれば、問題なく新しいお墓を建てることができます。
それに対して、墓地台帳に記録のない無許可の「みなし墓地」の場合は、厳密にいえば新しいお墓を建てるのは違法ということになってしまうのかも知れません。
しかし、たとえ墓地台帳に記載のない無許可の「みなし墓地」であったとしても、江戸時代から数百年にわたった利用されてきたお寺や集落の墓地に、お墓を建てることを認めないというのは、行政としても現実的にできないでしょう。
無許可の墓地であっても行政は大目にみているのが現実
そういった古い墓地の場合、仮に墓地台帳に記録がなかったとしても、自治体によっては「みなし許可に係る届出」を提出することで、墓埋法の26条にもとづく正式な「みなし墓地」として認めてくれるところもあるようです。
その場合、昭和26年の墓埋法が制定される以前からそこにお墓があったということの証拠を提示しなければなりません。
古い寺院であれば、檀家名簿などの過去の資料が残っていると思われますので、そういったものがあれば、もともとそこにお墓があったということを客観的に証明できることになります。
とはいえ、実際には無許可の墓地であっても、ずっと昔から寺院やその集落にあったからという理由で、墓地台帳に記載がなくても墓地として扱われているところも全国にはたくさんあるようです。
そういった無許可の墓地が埋墓法に違反するからといって、改葬して更地にするなどということは現実にはできないので、行政としても大目に見ているというのが実情です。
このように、みなし墓地と一言でいっても、埋墓法に対応しているだけではなく、厳密にいえば埋墓法違反になるものまで、さまざまなものがあるということがお分かりいただけたかと思います。