アメリカのルイスビル大学の研究グループが世界中の5億人を対象にしてデータを分析したところ、独身男性の寿命は既婚男性より8~17年短く、独身女性は既婚の女性よりも7年~15年短いことが判明したそうです。
また、少し古いデータになりますが、日本の「国立社会保障・人口問題研究所」が出した人口統計資料集2005年版のデータによりますと、1995年に40歳で未婚だった人は既婚者にくらべて平均余命が8年も短くなっています。
なぜ「おひとりさま」は既婚者にくらべて短命だったのでしょうか?
また、現代においても、当時と同じように「おひとりさま」は短命であるといえるのでしょうか?
未婚の人は生活が乱れがちなので短命説は本当か?
独身の人が短命であることの理由としてよく言われるのが、ライフスタイルの問題です。
1人暮らしの人は、食事を外食などで済ませることが多かったり、睡眠時間も不規則だったりするために健康に影響がでるというものです。
確かに、栄養のバランスが悪かったり、生活のリズムが不規則だったりすることが、健康面でプラスになることはないでしょう。
しかし、未婚の人が短命であることを、それだけで結論づけるのはあまりにも乱暴といえるでしょう。
なぜなら、「国立社会保障・人口問題研究所」のデータを見た限りにおいては、平均余命の短くなる割合が、男女でほとんど差がないからです。
参考:国立社会保障・人口問題研究所人口統計資料集2005年版
外食が多くて睡眠時間も不規則というのは、イメージ的には男性が一人暮らしをする場合です。
それに対して、女性の場合には1人暮らしであっても自炊をする人が多く、男性ほどは夜遊びなどもしないというイメージがあります。
独身の男性と女性ではライフスタイルが違う可能性があるにもかかわらず、平均余命の短くなる割合が男女であまり差がないということは、食事や睡眠時間の乱れが、寿命に大きく影響しているとは考えにくいです。
それ以上に影響の大きい別な理由があるのではないでしょうか?
一人暮らしの人は死亡リスクが32%もアップする?
2015年にアメリカのブリガムヤング大学のジュリアン・ホルトランスタッド教授が、340万人以上のデータをもとに分析をしたところ、1人暮らしの人は死亡リスクが32%高まることが分かったそうです。
実際に、孤独な生活をすることそのものが、健康にさまざまな影響をあたえるとする医学的な研究発表がたくさんされています。
孤独な人は、そうでない人にくらべて心臓発作のリスクを32%上昇させるという発表や、アルツハイマーになる確率が2.1倍にもなるという発表などがあります。
いったいなぜ、孤独であることがこれほどまでに健康に影響をおよぼすのでしょうか?
もともと人間は孤独には耐えられない生き物です
人間は、社会的な動物であるといわれており、古代からずっと他人との結びつきを持ちながら生きてきました。
個々の力が他の動物よりも弱い人間が地球上で生き延びて行くためには、家族や集落という群れを作って、お互いにコミュニケーションを取るということがとても大切であったに違いありません。
そのため、1人だけになってしまうと、不安や恐れといった感情が本能的に湧いてしまうのが人間なのです。
つまり、人間はもともと孤独には耐えられない生き物ということがいえるわけです。
実際に、刑務所などでも雑居房よりも独房の方が、残酷であるといわれています。
たった一人で部屋に監禁されるということは、人間にとってそれほど苦痛を感じるということなのでしょう。
孤独を感じることが苦痛であるということになれば、それはすなわちストレスを生むことになります。
ストレスが万病のもとになるということは、いまや誰もが知っていることでしょう。
おひとりさまが、家族のいる人にくらべて統計的に短命であるというのは、こういったところに1つの原因がありそうです。
もちろん、「1人暮らしの方が他人に気を使わなくていいから気楽でストレスもたまらない」という人もいることでしょう。
しかし、あくまでも実際のデータを見る限りにおいては、孤独による苦痛でストレスをためて病気を誘発してしまっている人の方が多そうです。
一人暮らしの人は孤独死をしてしまう可能性があります
最近は1人暮らしの人が増えるにつれて、孤独死の問題がクローズアップされています。
家族のいる人であれば、体調に異変を感じたような場合でもすぐに相談をすることができます。
家族に病院につれていってもらったり救急車を呼んでもらったりすることで、最悪の事態を回避することも可能でしょう。
しかし、1人暮らしの人の場合には身近に体調の異変に気がついてくれる人が誰もいないために、自室で倒れてそのまま亡くなってしまうということもあります。
すぐに身近な人に相談して救急車を呼んでいれば助かっていたかも知れないのに、1人暮らしのために助からなかったというケースも少なくないはずです。
そういった、本来は死ななくても済んだ人が孤独死をしてしまうという問題も、「おひとりさま」がそうでない人にくらべて短命であることの理由の1つになっているものと思われます。
これからはおひとりさまでも長生きできる時代になっていく可能性
冒頭に紹介した未婚者は既婚者にくらべて余命が8歳も少ないという「国立社会保障・人口問題研究所」データは、あくまでも1995年の時点におけるものでした。
最近では生涯独身の人もめずらしくなくなりましたが、当時の未婚率というのは非常に低いものでした。
50歳の時点で一度も結婚したことのない人の割合を生涯未婚率といいますが、2015年には男性が23.4%、女性が14.1%となっています。
ところが、1995年当時の生涯未婚率は男性が9%、女性が5.1%でした。
さらに40年ほどさかのぼった1955年当時は、男性の生涯未婚率は1.2%、女性が1.5%と、非常に少ないものでした。
当時は、現在のように独身主義の人はいませんでしたし、いつまでも独身でいると周りの人が放っておかなかったために、なかなか出会いがないということもありませんでした。
そういう時代において、生涯独身であった人というのは、もともと健康面で何らかの問題を抱えていた可能性があります。
その証拠に、1955年当時の未婚者と既婚者の40歳の時点での余命の差は、男性が14.5歳、女性が14.8歳もありました。
つまり、当時40歳の時点で未婚だった人は、既婚の人にくらべて15歳近くも寿命が短かったことになります。
これほどまでに寿命に差があるということは、もともと健康的に問題のあった人が生涯未婚だったと考えるのが自然です。
同じおひとりさまであっても、当時といまでは状況はまったく異なっているはずですので、当時のデータをそのまま現在に当てはめて考えるのはナンセンスです。
そう考えると、現代のおひとりさまというのは、家族と暮らしている人とくらべて、それほど寿命の違いはなくなりつつあるのかも知れません。
SNSの発達がおひとりさまの寿命をのばしていく?
インターネットがなかった頃の一人暮らしの人というのは、本当に孤独でさみしかったに違いありません。
離れて暮らしている人とのコミュニケーション手段といえば、電話か手紙くらいしかなかったからです。
しかし、いまはSNSの発達によって、1人暮らしであっても常に人とのつながりを感じられるようになっています。
自分のことをSNSで発信すれば、多くの人がコメントをくれたりします。
最近では、高齢者の仲良しグループが、LINEでグループを作ってコミュニケーションをとっているケースも少なくないようです。
たとえ一緒に暮らす人はいなくても、SNSなどを通じて人とつながることができれば、孤独感から来るストレスを大幅に減らすことができるに違いありません。
孤独感からくるストレスを感じることが少なくなれば、1人暮らしの人は家族と暮らす人にくらべて寿命が短くなるといったことも、今後はなくなっていく可能性があります。
現代は、古いデータがまったく参考にならないほど、時代の流れが早くなってしまっているといえそうです。