散骨と樹木葬

遺骨を海や樹木の周りにまく散骨は違法にはならないのか?

海や樹木の周りに遺骨をまく散骨が話題になっているようです。

墓守をする人が誰もいなくなってしまった実家のお墓を整理して、両親や祖父母の遺骨を散骨しようと考えている人が増えているからです。

ただ、昭和23年に墓地や埋葬に関することを定めた「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)では、散骨に関する記載はまったくありません。

また、散骨をするということは、刑法190条の「遺骨遺棄罪」に該当する可能性あります。

そのため、1980年代頃までは、散骨をする行為は違法であるという考え方が一般的でした。

しかし、1990年代になって、当時の法務省から非公式に、「散骨は節度を持って行う限りは違法ではない」という見方がされるようになりました。

ここでは、散骨がどの程度の節度をもって行えば違法と判断されないのかについて考えてみたいと思います。

遺骨を海にまくというスタイルを想定していなかった墓埋法

墓埋法の第一条には次のように書かれています。

「この法律は、墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とする。」

つまり、墓埋法では墓地や納骨堂または火葬場の管理、埋葬などについて書かれており、散骨に関しては一切触れていません。

そのため、1980年代までは、墓埋法に定められていない散骨は違法であるという考え方が主流でした。

埋葬と散骨は何が違うのかといいますと、遺骨の上に土をかけるのが埋葬で、土をかけないのが散骨という解釈になります。

ですから、墓埋法で書かれている「埋葬」というのは、あくまでも遺骨や死体を葬ったあとにうえから土をかける状態のことを指し、粉末状にした遺骨をまいてそのままにしておく散骨は含まれないことになります。

また、1980年代に散骨が違法だとされた理由として、埋蔵法の第四条に以下のような文言があるからです。

「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。」

つまり、海は墓地ではないので、そこに遺骨をまくというのは違法になるという判断です。

石原裕次郎の遺骨を海にまきたいと望んだ人たちが国を動かした?

墓埋法ができた昭和23年当時は当然のこと、1980年代中頃までは海に骨をまくという発想を持つ日本人はほとんどいませんでした。

そういった日本人の常識を大きく変えるきっかけとなったのが、国民的大スターであった石原裕次郎の死です。

石原裕次郎が1987年に亡くなったときに、海やヨットをこよなく愛した故人のために、海に散骨したいとの希望が遺族にありました。

しかし、その当時は、散骨は違法であるとの考え方が一般的でしたので、遺族の希望はかないませんでした

その後、「新しい時代の要求に法律が対応していないことが問題だ」ということが指摘されるようになり、そういった世論の動きから1990年代に入って当時の法務省が「節度を持って行う限り散骨は違法にあたらない」という見解を示すようになったのです。

「節度を持った散骨」の節度とうのはどの程度のことを指すのか?

国から節度を持って行えば違法にあたらないというお墨付きをもらった散骨ですが、そもそも節度というのはどの程度のことを指すのでしょうか?

散骨を取り扱っている業者では、節度を持って散骨を行うために、以下のようなガイドラインを決めています。

  • 遺骨を細かく砕いで粉末状にしてまく
  • 海水浴場や猟場などをさけて人の迷惑にならないような場所にまく
  • なるべく沖の方に行って普段着(喪服を着ない)で行うなど他人に不快感をあたえないようにする
  • リボンなどをまいて海を汚さないように環境に配慮をする

こういったガイドラインを守って散骨を行っていれば、特に法的には問題はないとされているのが現状です。

遺骨を樹木の周りに散骨するのは違法にならないのでしょうか?

散骨というのは、海に遺骨をまくことだけを指すのではありせん。

樹木の周りに粉末状にした遺骨をまくという散骨のケースもあります。

海への散骨の場合は、節度を持って行えば違法ではないとの解釈がされていますが、それでは樹木の周りに遺骨をまくことは違法にはならないのでしょうか?

他人の敷地に遺骨をまくのはあきらかに違法となります

樹木の周りに粉末状にした遺骨をまくといっても、その樹木が他人の敷地内にあるものであれば、完全にアウトです。

たとえ森林であっても、そこは誰かの所有物であるわけですから、そういったところに散骨をしてはいけません。

自分の所有する土地以外の場所は、基本的に他人が所有する土地ということになりますので、そんなところに勝手に遺骨をまくなんてとんでもない話です。

合法となる可能性があるのは、あくまでも自分の敷地内にある土地に限られます

つまり、よほど広い敷地を所有していて、そこに大きな樹木があるような人じゃないと、陸地に散骨はできないということになります。

自分の敷地内であったとしても実際にはグレーゾーン扱いです

自分の敷地内にある樹木の周りであれば、堂々と散骨していいのかというと、必ずしもそうとは言い切れません。

海の場合は、節度を守って散骨すれば問題ないとの解釈がされていますが、近くに民家などがある可能性高い陸地の場合は、単純に同じ解釈をすることができません。

たとえ自分の土地であっても、陸地の場合は墓埋法第四条の「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。」という条文が適用されると解釈されているからです。

つまり、たとえ私有地であっても、墓地でないところには埋蔵や埋葬をしてはいけないことになっているのです。

ただ、この墓埋法第四条の条文を見てもらうと分かりますが、「埋葬又は焼骨の埋蔵」と書かれており、散骨については触れられていません。

先ほども書きましたように、上に土をかぶせるのが埋葬や埋蔵にあたります。

この条文を見る限りでは散骨を行ってはいけないとは書かれていないために、私有地に遺骨をまく行為はグレーゾーンであるとされています。

しかし、私有地に遺骨が見えないように埋蔵するのは違法で、粉末にした遺骨が見えるように散骨するのはグレーゾーンというのは、なんともおかしな話ですね。

条例によって散骨を禁止している地域もありますので注意が必要です

散骨は、海洋で節度を持って行ったり、私有地で行ったりする場合には、必ずしも違法ということにはならないということがお分かりいただけたかと思います。

しかし、自治体によっては条例で散骨を規制しているところもありますので、こらから散骨をする予定の人は事前に確認をするようにしましょう。

たとえば、北海道の長沼町では、「何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない」という条例があり、これに違反をすると6ヵ月以下の懲役または10万円以下の罰金という罰則が科せられます。

また、埼玉県の秩父市などでも、条例の36条で「何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない。ただし、市長が別に定める場合は、この限りでない。」と決められています。

静岡県の伊東市では、「伊東市における海洋散骨に係る指針」で、伊東市の陸地から6海里(11.11km)以内での散骨をしないようにとのアナウンスをしています。

樹木葬などのサービスを提供する業者の許可に関しても、条例で厳しく制限している自治体があります

なかには、そういった条例を無視して散骨サービスを提供しているような悪質な業者もいますので、散骨の業者を選ぶ際には注意をしなくてはいけません。