宇宙(成層圏)に散骨をするバルーン葬というのをご存知でしょうか?
散骨というと、海に遺骨をまく海洋散骨や木の周りに散骨をする樹木葬などがよく知られています。
しかし、遺骨を風船に入れて宇宙まで運ぶというバルーン葬は知らない人も多いのではないでしょうか。
この広い宇宙に生まれてきて、やがて死とともに誰にも迷惑をかけずに宇宙に帰って行くという、壮大なイメージに魅力を感じる人も少なくないようです。
ここでは、バルーン葬と呼ばれている散骨について、詳しく解説をしてみたいと思います。
風船で対流圏を抜けて宇宙のちょっと手前まで遺骨を運びます
バルーン葬というのは、文字通りバルーン(風船)を使って遺骨を宇宙まで運ぶお葬式のことです。
とはいえ、「風船なんかで本当に宇宙まで行けるの?」とお思いの方もいるかと思います。
宇宙というと、どうしてもロケットで行くというイメージがあるので、風船で宇宙になんか行けるわけがないと考えるのは当然です。
バルーン葬で使われる風船が到達できるのは、高度30km~40km程度といわれています。
宇宙というのは、大気圏の境界であるカーマン・ライン(高度100km)を超えたところと認識されていますので、バルーン葬の風船が到達するのは厳密にいうと宇宙ではないことになります。
しかし、一般のヘリウムガスを入れたゴム風船は対流圏(地表から11kmまで)を抜ける前に割れてしまうといわれていますので、バルーン葬に使われる風船が30km~40km程度まで到達するというのはすごいことなのです。
地表から11kmの地点での気温は-50℃という超低温になりますし、高度が上がって大気圧がさがると風船はどんどん膨らむことになりますので、割れずに対流圏を抜けて成層圏に突入するだけでも大変なことです。
厳密には宇宙ではなくても、対流圏を抜けて宇宙の一歩手前(成層圏)まで遺骨を運ぶことができるのがバルーン葬ということになります。
成層圏で3倍~4倍の大きさになったバルーンが割れて散骨されます
バルーン葬に使われる風船は、イベントなどで使われる小さなものではなく、直径が2m~2.5mにもなる巨大なものです。
この風船のなかにパウダー状に細かく砕いた遺骨を入れて、ヘリウムガス(あるいは水素ガス)を注入して膨らませます。
参列者全員に見送られた巨大風船は、宇宙に向かって上昇していき、約2時間後に成層圏まで到達します。
そこまで到達した時点で、風船のサイズは地上にあったときの3倍~4倍にまで膨張します。
やがて、膨張が限界に達すると風船は割れ、地球から運ばれてきた遺骨は成層圏に一瞬で散骨されることになります。
広大な宇宙(成層圏)に散骨をするわけですから、海洋散骨などにくらべてはるかに壮大なイメージの散骨といえます。
ちなみに、バルーン葬に使われる風船は、ゴムの木からとれる天然ゴムを使用しています。
天然ゴムは自然に分解する素材ですので、地球環境にもやさしくなっています。
バルーン葬を行うための費用はどれくらいかかるのか?
遺骨を成層圏まで運んで散骨するという壮大なイメージのバルーン葬ですが、実際に行う際にはどれくらい費用がかかるのか気になるところでしょう。
株式会社バルーン工房という会社のバルーン葬の料金をみてみますと、基本葬送費用一式24万円となっています。
この24万円のなかには、実施状況を撮影した写真(10枚~15枚)が含まれます。
この基本葬送費用一式とは別に、遺骨をパウダー状にするための費用として2万円かかりますので、トータルで26万円かかることになります。
遺骨を成層圏まで運んでもらって散骨をするための費用として考えた場合、決して高い金額ではないでしょう。
海洋散骨をする場合でも、クルーザーなどを貸し切って一家族だけで行う場合には20万円~40万円ほどの費用がかかりますので、それとくらべても特に割高感はありません。
おひとりさまがバルーン葬を生前予約することも可能です
身寄りのないおひとりさまの場合、自分がなくなったあとの葬儀やお墓のことで悩んでいる人もいることでしょう。
自分のお墓を建てても誰も訪れてくれる人がいなければ意味がないですし、かといって自治体で管理されている合祀墓に無縁仏として他の遺骨といっしょに納骨されるのは嫌だという人も多いでしょう。
そういった人が、自分が亡くなったあとの選択肢の一つとして、バルーン葬の生前予約を考えてみるのはどうでしょうか。
あらかじめ生前予約をしておくことで、亡くなったあとに宇宙(成層圏)まで遺骨を運ぶ作業をすべて業者が行ってくれます。
ただし、火葬などはバルーン葬の生前予約に含まれませんので、各市区町村で火葬をしてもらったあとに、遺骨を業者に送ってもらう形になります。
また、孤独死などをしてしまったときに、バルーン葬の生前予約をしていることを誰も気がついてくれないと困ります。
そうならないためには、エンディングノートや遺言書などにバルーン葬の生前予約のことをしっかりと記載し、業者が発行してくれる「生前契約証書カード」といっしょに保管をしておくことが大切になります。
病院や施設に入っているときには、職員の方に事情を説明して「生前契約証書カード」を見せておくようにするといいでしょう。
バルーン葬を行うことは法的には問題ないのでしょうか?
遺骨を風船のなかに入れて宇宙(成層圏)まで運ぶなんて、法的には問題ないのだろうかと心配になる人もいるかも知れません。
確かに、遺骨を遺棄したりすると刑法190条の「死体損壊等罪」に問われることがあります。
刑法190条には次のように書かれています。
「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する。」
参考:刑法190条
条文の中に「遺骨」という文言が確かに出てきます。
しかし、遺骨を粉末状にして、それが遺骨だと分からない状態にして散骨をすることは違法ではないとされています。
1990年代に法務省が「散骨は節度を持って行う限りは違法ではない」ということを非公式ながらアナウンスしているからです。
また、散骨に関して刑法190条のほかにも、墓埋法という法律も気になるところです。
墓埋法には、「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。」という条文があるからです。
しかし、埋葬というのはあくまでも「遺骨を埋めて上から土をかける」行為であって、パウダー状にした遺骨をまくだけならば、埋葬にはあたらないというのが最近の解釈です。
墓埋法という法律ができた当時は、いまのように広く散骨が行われるようになることは想定していなかったために、法解釈を難しくしてしまっています。
散骨に関する法解釈に関しては、以下のページで詳しく解説しています。
遺骨を本当に宇宙までロケットで運ぶ宇宙葬もあります
バルーン葬で宇宙に散骨をするといっても、バルーンが到達するのはあくまでも成層圏までであり、厳密には宇宙とはいえません。
それに対して、高度100kmのカーマン・ラインを突破して、
本当に宇宙まで遺骨を到達させて「宇宙葬」というものがあります。
この「宇宙葬」は、実際にロケットに遺骨を載せて運ぶことになります。
そのため、費用もそれなりにかかってしまうイメージがあると思います。
しかし、実際には思ったほど高くなく、株式会社みんれびが提供している「Sorae-ソラエ」というプランだと28万5千円の費用で遺骨を宇宙まで運ぶことができます。
Elysium Space社の「流れ星供養」というプランも、30万円という手ごろな値段で宇宙葬を行うことができます。
宇宙葬は提供している会社やサービスによって値段的にはピンからキリまであり、遺骨を入れたカプセルを月まで運ぶプランだと、250万円もの費用がかかります。
生きているうちに月まで行くのは無理だとしても、せめて死んでから行ってみたいと考えている人は生前予約をしてみるといいでしょう。
ロケットを使った宇宙葬は、ロケットを打ち上げるタイミングまで待つ必要があり、バルーン葬のように自分の好きなタイミングでできないのがデメリットといえます。