子育てが終わって会社も定年になったのをきっかけに、田舎暮らしを始めてみたいと考えている人もいるでしょう。
都会生活の長かった人にとっては、空気のきれいな田舎でのんびりと老後を過ごすことは魅力的に感じるかも知れません。
しかし、頭の中で想像することと、実際に住んでみるのとでは大きなギャップがあるのが田舎暮らしです。
田舎に引っ越しをしてしまってから後悔をしないためにも、高齢者になった自分が田舎暮らしをするとどういうことが起こるのかということを、冷静に考えてみる必要があるでしょう。
田舎に暮らしてみて初めて気がつく都会の便利さ
これまで都会に住んでいた人が田舎に住みはじめると、生活の不便さに驚くことになるでしょう。
都会ではあたり前だったものが、田舎にはないのです。
たとえばコンビニやスーパーです。
都会に住んでいるときには、コンビニなんて日本全国津々浦々どこにでもあると思っていたりするものです。
しかし、田舎暮らしをする場所によっては、買い物をするためにクルマを数十分も走らせなければならないようなところが普通にあります。
まだ会社を定年したばかりで体が動くうちはそれでも問題ないかも知れません。
しかし、クルマの運転をするのがつらい年齢になってきたときに、はたして買い物をするために数十分もかけてクルマで移動をしなければならないという生活に耐えられるでしょうか?
田舎では、都会のように電車やバスなどが走っていませんから、唯一の移動手段はクルマになります。
つまり、田舎暮らしをする人にとっては、クルマというのは生活必需品なのです。
しかも、田舎ではクルマにガソリンを入れるためのスタンドが、次々に潰れてしまっているのです。
ガソリンを入れるためだけに、隣町までクルマを往復で1時間も走らせなければならないという地域も決して少なくないのです。
都会で長い間暮らしてきた人が、はたしてそんな生活に耐えられるでしょうか?
参考記事:激減するガソリンスタンドの影響で給油が困難になってしまう?
病気になっても田舎にはお医者さんがいない?
人間は歳を取るにつれて、健康に不安をかかえる人が多くなってきます。
高齢者にとっては、近くに病院があるということは大きな安心感につながるに違いありません。
ところが、田舎に行くと近くに病院がない地域というのはたくさんあります。
厚生労働省の調査によりますと、その地域に医者が1人もいない「無医地区」というのは、全国に637地区もあるのです。
参考:平成26年度無医地区等調査及び無歯科医地区等調査の結果~厚生労省
「病気になったら、すぐに近くの病院に行く」という、都会に住んでいたときにはあたり前に思っていたことが、田舎暮らしでは困難になるかも知れません。
仮に無医村地区ではなかったとしても、田舎の診療所などでは最新の治療が受けられない可能性があります。
たとえば、心筋梗塞や脳梗塞などの命にかかわるような病気になってしまったときでも、集中治療室や最新設備の整った病院が近くにあれば、助かる確率は飛躍的に高くなります。
田舎暮らしで近くにそういった病院がない場合には、助かる可能性のあった人であっても最悪の事態を招いてしまう可能性があるわけです。
定年直後で移住したばかりのときは、まだまだ健康で病院のお世話にならなくても大丈夫だと思っていた人でも、歳をとるにつれて近くに病院がないことの不安がどんどん大きくなって行くことでしょう。
もともと田舎で暮らしている人から見れば、近くに最新設備を備えた大きな病院がある都会の人たちがうらやましいと感じているに違いありません。
憧れの広い庭や畑も実際に管理をするのは大変です
都会暮らしをずっとしてきた人にとっては、広い庭や家の横の小さな畑といったものは大きな憧れかも知れません。
都会でマンション暮らしだったり、ウサギ小屋と呼ばれる庭のまったくない狭い土地の一戸建てに暮らしていたりする人にしてみれば、直接土に触れることのできる広い土地を所有することに憧れるのは当然です。
しかし、実際に田舎暮らしをしてみればすぐに気がつくことですが、広い土地を管理するということは本当に大変です。
夏場などは、少し放置をするとあっという間に雑草だらけになってしまいます。
草抜きをしても、次々に新しい草が生えてきてしまうので、うんざりしてしまうでしょう。
高齢になってから広い庭や畑をきれいな状態で維持するというのは、想像以上に大変だということを知っておくべきです。
田舎の人は、「マンションなら草抜きをしなくていいから楽だな」などと冗談でいったりしますが、これは意外に本音だったりします。
田舎は物価が安くて生活費がかからないというのは幻想?
よく、田舎は物価が安いので都会暮らしにくらべて生活費がかからないなどと言われます。
本当でしょうか?
確かに土地の値段や賃貸住宅の家賃などは、都会にくらべて田舎の方が安いです。
しかし、それ以外の生活用品に関しては、むしろ都会の方が安かったりします。
都会では、いくつものスーパーマーケットがライバル店と価格競争をしていますし、百円ショップに行けば、さまざまな物が100円ポッキリで買えたりします。
それに対して田舎の場合は、お店の数そのものが少ないために競争がなく、商品もそれほど売れないことから値段的に割高なことが多いです。
また、健康保険料も都会よりも田舎の方が高い傾向があります。
厚生労働省の「市町村国民健康保険における保険料の地域差分析」によると、健康保険料が最も高いのが徳島県で、2位が宮崎県となっています。
逆に、健康保険料が最も安いのが東京都で、2位が神奈川県です。
また、ガスの料金なども、都会では都市ガスが使われていたりするために、プロパンガスを使っている田舎にくらべて安かったります。
交通費に関しても、都会ではバスや電車での移動がメインとなりますのでそれほど大きな負担にはなりませんが、田舎では先ほども書きましたようにクルマを所有していないと生活ができません。
クルマの購入費用や税金、ガソリン代などを考えると、交通費に関しては都会の方が圧倒的に安いといえます。
このように、田舎は都会にくらべて物価が安いので暮らしやすいというのは、大きな間違いであるということに気がつくと思います。
高齢者の田舎への移住は自治体にとっては迷惑?
過疎化しつつある田舎の自治体にしてみれば、なんとか人口の減少に歯止めをかけたいと思っていることでしょう。
そのため、都会から移住を希望する人に対しては大歓迎してくれるに違いないと考える人もいるかも知れません。
しかし、それは大きな勘違いです。
過疎化しつつある田舎の自治体にとって、都会から移住をしてほしいと思っているのは、あくまでも労働者としての価値のある若い人です。
若い人がどんどん移住をしてきてバリバリ仕事をしてくれれば地域も活性化しますし、税金もしっかりと納めてくれますので自治体にとっては大歓迎です。
しかし、すでにリタイアをして収入がなく、納税が期待できない高齢者の移住を歓迎する自治体などあろうはずがありません。
納税が期待できないどころか、高齢者が増えれば医療費や介護給付金、生活保護費などの出費がどんどんかさんで行ってしまう可能性があるわけです。
つまり、高齢者が田舎に移住をしてくることで、その地域で働いている若者や自治体にどんどん負担を負わせてしまうことになるのです。
田舎の自治体にしてみれば、リタイアした人たちが次々に移住をしてこられるというのは、はっきり言って迷惑であると感じるに違いありません。
これまで都会にたくさんの税金を納めてきて、税金を払う必要がなくなったとたんに田舎に越してきて、自治体にさまざまな負担をかけさせてしまうわけですから当然です。
定年後に田舎暮らしをしたいと考えている人は、自分がその自治体に迷惑をかけてしまうかも知れないということを、頭の片隅に入れておいた方がいいでしょう。