お葬式というのは亡くなった人のためにするものです。
この認識は古今東西どこでも共通しています。
しかし、一部の人は自分が生きている間に葬儀を行ったりします。
これを生前葬といいますが、ビートたけしや桑田佳祐が行ったことで話題になりました。
常識的に考えれば「縁起でもない!」と思えるような生前葬ですが、あえてそれをする理由はどこにあるのでしょうか?
また、一般の人の間では生前葬が行われることはほとんどありませんが、その理由についても合わせて考えてみたいと思います。
過去に生前葬を行った著名人たち
過去に生前葬を行った署名人は少なくありません。
生前葬を行って現在も生きている著名人には、ビートたけし、桑田佳祐、テリー伊藤、小椋佳、カンニング竹山、アントニオ猪木、SMAP、などがいます。
こうした著名人が生前葬を行う理由はさまざまです。
ビートたけしの場合は、2009年4月3日に自身が62歳のときに生前葬を行っていますが、あまり深い意味はなく「コントで葬式をやると番組が当たる」といった程度のものでした。
桑田佳祐も、ビートたけしが生前葬を行った直後の2009年4月20日に53歳で行っていますが、こちらも「新番組が始まるので、一度死んで生まれかった気持ちになる」といった程度の意味合いだったようです。
どちらも、背景に人生観的な深い意味があるというよりも、番組(仕事)のための話題作りといったことが主な理由といえそうです。
自分の死期を悟って「感謝の会」を行った安崎暁氏
建設機械メーカーのコマツの元社長であった安崎暁氏が、生前葬を行ったのは2017年11月です。
2017年10月に自身が胆のうがんであることが発覚し、すでに肝臓や肺などに転移した末期であることが分かると、延命治療を拒否して翌月に「感謝の会」という名称の生前葬を行いました。
この「感謝の会」には1000人近くの関係者が集まりましたが、安崎暁氏は車椅子に乗ったまま参加してくれた人と一人ずつ握手をして感謝の気持ちを伝えたそうです。
同じ生前葬であっても、ビートたけしや桑田佳祐が仕事と結びつけて行ったのとは、明らかに趣旨が異なります。
安崎氏は、自分が亡くなってしまったあとでは、どんなに大勢の人が葬儀に参列してくれたとしても、その人たちに感謝の気持ちを伝えられないと考えたのでしょう。
なかなか普通の人ではまねのできることではないと思います。
安崎暁氏は、生前葬を行った翌2018年の5月31日に、81歳で亡くなっています。
実際に生前葬を行う一般の人がほとんどいない理由
著名人が生前葬を行うとマスコミに派手に取り上げられて話題になります。
興味本位で自分もやってみたいと考える人もいるかも知れません。
しかし、自分自身の身の周りを見渡してみても、実際に生前葬を行ったという人はほとんどいないと思います。
安崎暁氏のように、自分が生きている間にお世話になった人に感謝の気持ちを伝えることができたらどんなに素晴らしいだろうと思う人は少なくないはずですが、なかなか実行には移せないようです。
その理由について、いくつか考えてみたいと思います。
男性の多くは自分の死と向き合うことを避けたいと考えます
確かに、自分が生きている間にお世話になった人に感謝を伝えることができるというのは素晴らしいことです。
葬儀業者のところには、興味本位で生前葬の相談に来る人がときどきいるそうです。
しかし、多くの場合は相談だけにとどまり、実行に移す人は本当にまれなようです。
やはり「生きているうちに葬式をするのは縁起が悪い」といった考えが根底にはあるのだと思います。
特に、男性は自分の死について、あまり深く考えたくない人が多いといわれています。
終活関連のセミナーなどの参加者も、圧倒的に女性の方が多いようです。
人間というのは死亡率100%で、いつかは必ず死をむかえることになるわけですが、出来ればそのことからは目を背けたいと考える男性が多いのだと思います。
生前葬をした人が注目をあびるのは、「なかなか自分にはまねのできないすごいこと」だと、多くの人が感じるからに違いありません。
そもそも一般人の生前葬に参列者が集まるかどうか疑問
最近では、葬儀の規模が年々小さくなってきています。
いわゆる家族葬や火葬式といった形で、一般の参列者は呼ばずに身内だけでひっそりと葬儀を行うことも多くなっています。
ましてや自分が生きている間に行う生前葬となると、どれだけの人が集まってくれるのか疑問になります。
会社を定年して社会とのかかわりがほとんどなくなってしまったような人だと、人間関係もごく限られた人だけになっているはずです。
また、生前葬といっても手ぶらでは参列できませんから、来てくれる人にそれなりの負担を強いることにもなります。
「生きている間に感謝を伝えたい」という自分のエゴのために、友人や知人に負担をかけてしまうのでは本末転倒といえなくもありません。
そもそも、親戚一同に反対される可能性も高いですし、「ただの変わり者」だと思われてしまう可能性もあります。
やはり、芸能人や財界人などのように、社会的に影響力があって幅広い人脈を持つような人でもなければ、生前葬を行うということは現実的ではないのかも知れません。
結局はもう一度葬儀をやることになってしまう?
仮に生前葬を行ったとしても、実際に死んだときには何もせずにただ火葬だけというわけにもいかないでしょう。
生前葬というのは「感謝の会」のような形で、無宗教で行うのが一般的です。
そのため、実際に死んだときにはお坊さんを呼んで宗教的な意味合いでの葬儀をしなければならなくなったりします。
つまり、生前葬と合わせて葬儀を2回やることになってしまうわけです。
そのため葬式費用もトータルではよけいにかかってしまうことになりますし、参列者の人にも香典を2回もらうことになってしまいます。
残された人に負担をかけたくないとの思いから、生前葬を考えている人もいるかも知れませんが、トータルではむしろよけいな負担をかけてしまう可能性が高いといえます。
そもそも、自分の葬式代くらいは遺産としてしっかりと残してあげれば、あえて生前葬などしなくても残された人に経済的な負担をかけることにはなりません。
生前葬というのはごく1部の人がシャレで行う儀式?
芸能人や財界人などとは違い、一般人が生前葬を行うというのは現実的ではないというお話をさせていただきましたが、それでも実際に行う人はいます。
多くの場合は、「生きている間にお世話になった人に感謝をしたい」という大義名分を掲げていても、実際にはほとんどシャレで行うケースが多いようです。
シャレで自分の遺影を飾り、シャレで友人が弔辞を読んだりするわけです。
つまり、気の合った仲間と悪のりの延長で行うというのが、一般人の行う生前葬といえます。
多くの人が縁起でもないと考える生前葬をあえてやるわけですから、シャレの分かる仲間だけに限られた儀式ということがいえそうです。
生前葬を受け付けている葬儀屋さんの話によると、生前葬を行う人の割合は10万人に1人程度らしいので、実際に生前葬を行う場合には、世間から「変わり者」のレッテルを貼られる覚悟は必要になるでしょう。