高齢者施設を運営するためには、都道府県などに届出をする必要があります。
しかし、それらの届出をしないで運営している高齢者施設があります。
それが、いわゆる「無届けホーム」と呼ばれているものです。
ここ数年で無届けホームは急速に増えており、高齢者施設の1割程度は無届で運営されているといわれています。
なぜ、無届けホームの数がこれほど急に増えているのか、その背景について考えてみたいと思います。
無届けホームの数が増えている主な理由
無届けホームが増えている背景には、さまざまな理由がありますが、ここでは主な理由をいくつかとりあげて紹介をしてみたいと思います。
特別養護老人ホームに入居したくてもできない
特別養護老人ホーム(特養)は、低所得の人でも負担が重くならないような軽減策が用意されているために、とても人気の高い高齢者施設です。
そのため、入居したくても入居できない待機者がとても多くなっています。
2017年3月の厚生労働省の発表では、特別養護老人ホームの待機者は36.6万人となっています。
2013年10月の調査では特養の待機者は52万人もいました。
あまりにも待機者が多いために、要介護2以下の高齢者は基本的に入居をすることができないように入居要件を厳しくしましたが、それでもまだ36.6万人もの待機者がいるわけです。
こうした、特養に入居したくてもなかなか入居できない人たちが、利用料の安い「無届けホーム」に流れているのです。
経済的な理由により正式な高齢者施設に入れない
費用の安い特別養護老人ホームに入居したくても待機者が多くてなかなか入居できない人の選択肢として、介護付き有料老人ホームや介護型サ高住などがありますが、費用的には高額なところが多くなっています。
そのため経済的な事情により、そういったところに入居できない人たちが、費用の安い無届けホームを選択せざるを得ないという事情があります。
仕事と介護の両立に疲れ切ってしまった家族が、無届けホームであることを知りつつも、利用をしてしまうケースも少なくないようです。
ちなみに、無届けホームの月額費用の平均は、10万円前後となっているようです。
身寄りがないために他に入居させてくれる施設がない
高齢者施設の多くは、入居の際に身元保証人が必要になります。
しかし、身寄りのない「おひとりさま」の場合、身元保証人を探すというのは非常に困難です。
参考記事:おひとりさまが介護施設に入所するとき身元保証人をどうやって探したらいいのか?
身寄りのない人が、身元保証人なしで入居をさせてくれるところを探しているうちに、たどりついたのが「無届けホーム」というケースも少なくないようです。
身元保証人なしで入居を許可する代わりに、預金通帳などの財産を施設で管理することなどを条件にしている無届けホームも多く存在しています。
そういった条件でも、身寄りのない人にとっては、入居させてくれるだけでもありがたいと感じてしまうのでしょう。
無届けホームが割安な料金で運営できる理由
無届けホームが増えてきた背景には、特養の待機者の増加や経済的な事情によって高額な有料老人ホームに入居できない人たちのニーズがあるわけですが、なぜ「無届けホーム」は割安な料金で運営ができるのでしょうか?
一番の理由としては、施設の設備に費用をかけていないという点があげられます。
正式に老人ホームとして届出をするためには、スプリンクラーなどの法令にもとづいた設備を設置しなければなりません。
無届けホームでは、そういった設備を設置しないことで、初期費用をおさえています。
また、無届けホームでは高齢者施設としての面積基準も満たしていないことも多く、部屋がかなり狭かったりします。
1人あたりの部屋の広さを狭くすることで、コストの削減につなげているわけです。
無届けホームの入居費用が安いもう一つの理由としては、人員配置基準を満たしていないことで人件費をおさえているという点があげられます。
特養や老人保健施設の場合ですと、要介護者3人に対して介護・看護職員が1人必要ですが、無届けホームではこの基準を満たしていないところが少なくありません。
そのため管理が行き届かず、部屋に鍵をかけて入居者を部屋に閉じこめたりするなどの、悪質な無届けホームも存在するようです。
2014年11月に、東京都北区にある無届けホームで入居者をベルトでベッドに縛りつけるなどの虐待が明るみにでたことがありますが、人件費を削減した結果として人手不足によりこうした悲劇が起こるわけです。
ケアマネや病院の紹介で無届けホームに入居することも多い?
無届けホームの入居者というと、知らずに騙されて入居してしまった人が多いというイメージがあるかと思いますが、実際にはそうではありません。
無届けホームに入居する人は、ケアマネや病院から紹介されて入居するという人が圧倒的に多いのです。
なぜケアマネや病院はそういった無届けの高齢者施設をあえて紹介するのかといいますと、退院したあとにどこにも行き場のない高齢者が少ないないという事情があるのです。
先ほども書きましたように、特別養護老人ホームは待機者が多く、そう簡単には入居できません。
家族がいる高齢者であれば、退院後に在宅で介護を受けるという選択肢もありますが、身寄りのない「おひとりさま」の場合、行き場を失ってしまうことになります。
家族がいても、介護と仕事の両立が困難な場合は、無届けであっても受け入れてくれる施設があるだけでもありがたいと感じてしまうに違いありません。
また、経済的にある程度の余裕がある人でなければ、高額額な有料老人ホームへの入居は困難です。
無届けホームは、皮肉なことにそういった人たちの受け皿となっているわけです。
つまり、ニーズがあるからこそ、無届けホームの数がどんどん増えているということになります。
ケアマネや病院としては、入院患者の早期退院を促すためにも、こうした無届けホームを紹介せざるを得ないという事情があるのです。
無届けホームか正式な高齢者施設かを見分ける方法
高齢者施設の1割程度は「無届けホーム」だといわれていますが、実際に正式に届出を済ませた高齢者施設と無届けホームを見分けるにはどうすればいいのでしょうか?
無届けホームといっても、正式な高齢者施設と区別できないようなもっともらしい名称のところが多いですので、単純に施設の名称だけでは判断することはできません。
「高齢者向け○○○マンション」などといった、許可を受けたサ高住と間違えてしまいそうな名称のところも多いです。
そのため、その有料老人ホームが正式に届出されているのか無届けなのかについては、所在地の自治体に確認をする以外にはありません。
サ高住に関しては、以下のようなサイトに登録されているかどうかを確認してみるといいでしょう。
身寄りがなく身元保証人のいない高齢者が有料老人ホームに入居するためには
経済的には有料老人ホームに問題なく入居できるような人であっても、身寄りがないという理由で入居を拒否されてしまうケースもあります。
そういった身寄りにないおひとりさまが、仕方なく身元保証人不要で入居できる無届けホームを利用してしまうというケースもあるでしょう。
しかし、身元保証人がいないということだけが問題なのであれば、無届けホーム以外にもいくつか選択肢があります。
経済的に問題がないのであれば、なんとかして身元保証人を探すことを考えてみればいいわけです。
参考記事:介護施設・老人ホームへ入居する際の保証人代行サービス~心託の身元保証プラン
また、施設によっては、ある程度の財産があることを証明できれば、身元保証人がいなくても入居できるところもあるようです。
経済的に問題がないのであれば、おひとりさまであっても、あえて条件の悪い無届けホームを選択せずに済む可能性は高いといえます。