お墓を建てるためには、200万円~300万円の費用がかかるといわれています。
内訳としては墓地の永代使用料と墓石を建てるための費用が主なものですが、永代使用料に関しては墓地や霊園で定めた金額ですので、そこにお墓を建てようと思ったら請求された金額を支払わざるを得ません。
問題は墓石です。
墓石を建てる費用に関しては、業者によって料金に大きな開きがありますので、できれば複数の業者から見積をもらって、比較をするのが理想です。
しかし、この業界にはそれを拒む古くからの悪しき風習があるのです。
それは「石材店の指定制度」です。
つまり、その寺院や霊園にお墓を建てようと思ったら、指定された石材店以外の業者にお墓を建ててもらうことはできないという決まりです。
石材店が指定されてしまうと、墓石を建てるための費用は、その業者の言い値ということになってしまいます。
お墓のような高額商品を業者の言い値で購入するというのは、一般の消費者目線で考えるとありえない話なのですが、この業界では当たり前のようにまかり通ってしまっているのです。
寺院や霊園ではなぜ石材店を指定するのでしょうか?
公営墓地の場合には、自由に石材店を選んでお墓を建てることができるのが普通です。
永代使用料を支払って利用の許可がでている墓地に、どこの業者を使って墓石を建てようとも本来は自由なはずですから当然のことです。
しかし、民営墓地の場合には、お墓を建てるときに石材店が指定されるケースが多くなっています。
1社だけの指定の場合もあれば、複数の指定石材店の中から、霊園側で勝手に業者を決めるパターンもあります。
なぜそのようなやり方をするのでしょうか?
お墓を建てる人が悪質な石材店の被害に合わないようにするため?
寺院や民間の霊園で石材の指定をする理由として、いちおう大義名分はあるようです。
「お墓を建てる方が悪質な石材店の被害に合わないようにするため」とか「デザイン的に統一されたお墓を建ててもらいたい」というのが表向きの理由です。
石材店というのはまさに玉石混交で、なかには手抜きの施工をしたりする悪質な業者もいます。
一般の人がお墓を建てる機会は一生のうちに何度もあるものではありませんので、業者の良し悪しを判断するというのはなかなか困難なことです。
そこで、寺院や霊園が長い間にわたってお付き合いをしている指定の石材店を利用すれば、悪質な業者に騙される心配はないので安心できるという理屈です。
また、美観の問題から外部の石材店を使って奇抜なデザインのお墓を建ててほしくないという理由も、分からないわけではありません。
そういった理由を聞かされてしまうと、なんとなく納得してしまう人もいるかも知れません。
しかし、寺院や霊園側の本音の部分は、別のところにあることも多いのです。
指定の石材店からリベートももらっている寺院や霊園もあります
お墓を建てる人のことを思ってくれたり美観を考えたりして石材店を指定しているのであれば何も問題はないのですが、実際にはそれだけが理由ではないことも多いのです。
実は、指定の石材店がお墓を建てるときに、寺院や霊園がリベートを受け取っていることがあるのです。
たとえば、あらたに150万円のお墓を建てたとすると、石材店はそのうちの2割にあたる30万円を寺院や霊園にリベートとして渡すわけです。
その石材店が、自社の利益のなかからやりくりをしてリベートを渡すのであれば問題はありません。
しかし、業者が指定されることで他の石材店との競争がありませんから、自社の利益を削ってまでリベートを支払う業者はいません。
結局は、寺院や霊園に渡すリベート分は、お墓の建て主が負担をすることになるわけです。
つまり、本来であれば120万円で建てることができるお墓なのに、リベート分を含めて150万円を請求されるということです。
競争相手がないことで石材店はボロ儲けできる?
石材店指定のある寺院や霊園の場合、指定の業者がリベート分を本来の墓石代に上乗せしているケースもあるわけですが、実はそれ以上に業者がおいしい思いしているケースも少なくないのです。
お墓というのは、定価というものがありません。
たとえば、クルマを購入するときにはメーカーの希望小売価格というものがありますので、同じクルマであればどこのお店で購入しても、購入金額に大きな差が生じることはありません。
せいぜい数万円から10万円程度の差が生じる程度です。
ところが、お墓というのはオーダースーツのようなものですから、石材店の判断でいくらでも高い見積もりをつくることが可能になります。
悪質な業者になると、公営墓地などで競争相手がいるときの見積り金額にくらべて、2倍~3倍もの金額をふっかけてくるようなところもあります。
こうなると、たとえ寺院や霊園にリベートを支払ったとしても、石材店はボロ儲けです。
「石材店指定=競争相手がいない」ということの恐ろしさは、まさにこういった部分にあるわけです。
地方では石材店指定のない寺院や霊園も多くなっています
公営墓地以外の寺院や霊園が、すべて石材店を指定しているというわけではありません。
そういった指定があるのは、首都圏などの都市部にある寺院や霊園です。
地方の寺院や霊園の場合、民営であっても石材店指定のないところも多いですし、たとえ指定があったとしてもリベートなどを受け取っていないところも多いです。
なぜなら地方の場合、寺院や霊園が石材店を指定してしまうと業者同士の競争がないことから必然的にお墓の値段が上がってしまうため、その墓地でお墓を建てる人が誰もいなくなってしまうからです。
業者指定の墓地で一部の石材店が潤っているのは、墓地の絶対数が少なく霊園側が売り手市場となっている都市部周辺ということになります。
都市部周辺では、墓地の永代使用料も高額であることが多いので、墓石代と合わせてまさに踏んだり蹴ったりになる可能性もあるわけです。
そういった事情もあり、都市部周辺では、あえてお墓を建てずに永代供養付きの納骨堂などを求める人が増えてきているわけです。
石材店指定のない霊園でお墓を建てることのメリットとデメリット
石材店指定のない霊園や寺院でお墓を建てることの一番のメリットは、ここまで繰り返し説明してきましたように、競争の原理でお墓を安く建てられる可能性が高いという点です。
競争がない状態だとどうしても業者の見積り金額は高くなりますし、リベートの問題もあります。
お墓のような高額商品は、業者を競わせることで必ず安くなります。
それ以外のメリットとしては、自分の気に入ったデザインのお墓を自由に立てることができるといった点などがあります。
寺院や霊園で指定された業者の場合ですと、あらかじめ用意された数種類のデザインの中からしかお墓を選ぶことができないケースも少なくありません。
こだわりのあるお墓を建てたい人にとっては、自由に石材店を選べるという点は大きなメリットとなるはずです。
また、自分の親戚や知人などが石材店を経営していたり、身近な人が過去に利用したことのある信頼できる石材店があったりする場合、そういったところに依頼をすることができるという点も、業者指定のない霊園のメリットといえます。
もちろん、石材店指定のない寺院や霊園でお墓を建てるときに、自分で業者選びをすることのデメリットがまったくないわけではありません。
それは、すべてが自己責任になるということです。
一般の人でお墓に詳しい人などはめったにいませんから、悪意を持ったプロの業者が何か悪いことをしようと思えばいくらでもできるわけです。
悪質な石材店に騙されないようにするためには、過去にお墓を建てたことのある人などにいろいろと意見を聞くなどして、慎重に業者選びをする必要があります。