日本のお葬式の多くは仏式で行われます。
しかし、だからといってどこのお寺でお葬式をやってもいいということではありません。
なぜなら、お寺には宗派というものがあるからです。
現在では、かつてのように檀家と菩提寺といった関係が希薄になってしまっているために、いざお葬式をやるときになって、故人の宗派が分からないということも普通に起こってしまいます。
ここでは、亡くなった方の宗派を、どうやって調べたらいいのかについて解説してみたいと思います。
仏壇のある家であれば宗派が分かる可能性があります
亡くなった方の宗派が分からないときに、まずやるべきことは、その方の先祖の位牌がある仏壇を調べてみることです。
仏壇には、位牌や掛け軸など宗派に関するさまざまな情報源がありますので、そこから宗派を特定することも可能になります。
仏壇のなかの位牌に書かれた文字から宗派を推測する
仏壇のなかにある先祖の位牌には、戒名が書かれています。
戒名は宗派によってつけ方が異なりますので、この戒名を見ることによって、宗派をある程度特定することが可能になります。
ちなみに、戒名と呼ぶのは浄土宗・真言宗・曹洞宗・臨済宗・天台宗で、浄土真宗では法名、日蓮宗では法号と呼びます。
位牌の一番下をみることで見分けがつく浄土真宗
宗派を調べるときには、まず位牌の一番下の部分に注目をします。
そこに「居士・信士・大姉・信女」のいずれかが書かれていれば、浄土真宗以外の宗派ということになります。
男性であれば「〇〇院〇〇〇〇居士」や「〇〇〇〇信士」、女性であれば「〇〇〇〇大姉」や「〇〇〇〇信女」などと書かれているケースです。
この場合は、浄土宗・真言宗・曹洞宗・臨済宗・天台宗・日蓮宗のいずれかになります。
浄土真宗の場合には、位牌の一番下に「居士・信士・大姉・信女」が入ることはなく、法名の前に「釋・釋尼」が入るのが特徴です。
たとえば男性の場合だと「〇〇院釋〇〇〇」、女性の場合だと「〇〇院釋尼〇〇〇」のような法名になっています。
浄土宗は位牌の中の文字に「誉号」が書かれているかどうかで判断
浄土真宗以外の宗派は、戒名の一番下の部分が「居士・信士・大姉・信女」になっているため、他の部分をみてどの宗派かを判断しなければなりません。
まず浄土宗ですが、誉号といって戒名の前に「誉」という文字が入ります。
たとえば、「〇〇院〇〇誉〇〇〇〇居士」といった感じです。
この「誉」という文字を位牌に書かれた文字のなかに見つけたら、宗派は浄土宗だと思っていいでしょう。
位牌の一番上に梵字が書かれていれば宗派は真言宗の可能性が高い
真言宗の場合には、位牌の一番上に梵字が書かれているのが普通です。
梵字というのはインドで使われるブラーフミー系文字の漢訳で、以下のような文字になります。
位牌には「梵字〇〇院〇〇〇〇居士」といった感じで書かれています。
位牌の一番上に、こういった梵字が書かれていれば、宗派は真言宗の可能性が高いといえます。
ただし、浄土宗・曹洞宗・臨済宗・天台宗などの他宗派でも位牌に梵字が入ることがありますので、梵字が入っているからといって絶対に真言宗ということではありません。
日蓮宗の場合には法号の途中に「日号」が入ります
日蓮宗の場合は、法号の前に「日・妙」という文字が入ります。
これを日号といますが、位牌に書かれた法号にこれらの文字が書かれていれば、日蓮宗であると判断できます。
たとえば「〇〇院〇〇日〇〇〇居士」といったような感じです。
位牌では見分けがつきにくい天台宗・曹洞宗・臨済宗
位牌をみても、宗派を特定しにくいのが、天台宗・曹洞宗・臨済宗です。
天台宗・曹洞宗・臨済宗の位牌には、「誉号」や「日号」といった宗派を特定する文字が入らないからです。
いずれも「〇〇院〇〇〇〇居士」のように書かれますので、位牌だけをみてどの宗派かを特定するのは困難だといえます。
また、先にも書きましたように、天台宗・曹洞宗・臨済宗の位牌には梵字が入ることがありますので、その場合は真言宗とも見分けがつかなくなってしまいます。
仏壇のなかにある御本尊をみて宗派を推測する
仏壇のなかにあるのは位牌だけではありません。
なかにかけられている御本尊を見ることでも、ある程度は宗派を特定することができます。
浄土宗・浄土真宗・天台宗は「阿弥陀如来」の御本尊が祭られています。
浄土真宗の場合は、阿弥陀如来の周りに派手な後光が描かれていますので、すぐに見分けがつきます。
真言宗の御本尊は大日如来になります。
大日如来をご本尊にしている宗派は他にはありませんので、それだけで真言宗であることが特定できます。
曹洞宗と臨済宗の御本尊は、釈迦如来になります。
どちらの宗派の釈迦如来も同じような絵柄となっていますので、ご本尊を見ただけで曹洞宗か臨済宗かを見分けるのは難しいと思います。
日蓮宗の場合は、「南無妙法蓮華経」と書かれた曼荼羅がご本尊となっていますので、見分けがつきやすいと思います。
お坊さんのお経を思い出すことでどの宗派かを判断できることもあります
過去に故人の親族の葬儀や法事に出席したことがあれば、そのときにお経や念仏などを聞いていると思います。
そのとき僧侶が何を唱えていたかを思い出すことができれば、宗派を特定できる可能性もあります。
南無阿弥陀仏という念仏を唱えるのは浄土宗か浄土真宗です
葬儀や法事のときに、僧侶といっしょに「南無阿弥陀仏」という念仏を何度も唱えた記憶がある人もいることでしょう。
「南無阿弥陀仏」という念仏を唱える宗派は限られており、浄土宗か浄土真宗のどちらかと考えていいでしょう。
浄土宗と浄土真宗の違いは、先ほど説明しましたように、位牌を見ることではっきりと区別することができます。
南無妙法蓮華経という題目を唱える宗派は日蓮宗です
浄土宗と浄土真宗は「南無阿弥陀仏」という念仏を唱えることから宗派を特定しやすいですが、日蓮宗も「南無妙法蓮華経」という題目を唱えるところに特徴がありますので、他の宗派とは簡単に見分けがつくと思います。
過去に参列した葬儀や法事のときに、故人の身内が「南無妙法蓮華経」という題目を唱えていた記憶があるのであれば、宗派は日蓮宗であると考えていいでしょう。
般若心経を唱える宗派には天台宗・真言宗・曹洞宗・臨済宗があります
「南無阿弥陀仏」や「南無妙法蓮華経」といった念仏や題目であれば、素人でもすぐに違いが分かることでしょう。
しかし、長いお経となると、一般の人にはどれも同じように聞こえてしまい、それがなんというお経なのかを判断するのは困難だと思います。
そんななか、一般の人の間でもわりと知られているのが、「般若心経」です。
最近では写経がブームになっていることもあり、「色即是空 空即是色」や最後の「ぎゃーてーぎゃーてーはーらぎゃーてー」というフレーズの部分で、般若心経だと気がつく人も少なくないでしょう。
葬儀や法事で般若心経が読まれる宗派としては、天台宗・真言宗・曹洞宗・臨済宗などがあります。
過去に、故人の親族の葬儀や法事に参列したときに、般若心経を耳にした記憶があれば、これらのどれかの宗派である可能性が高いといえます。
より確実なのは親戚などの年配者にどの宗派か確認することです
仏壇を見たり、過去の法事で唱えられていたお経を思い出したりすることで、ある程度はどの宗派かを推測することはできます。
しかし、それだけの情報で素人が宗派を確実に特定できるという保証はありません。
たとえば、同じ浄土真宗のなかにも本願寺派と大谷派がありますし、それらの違いは御本尊の上にのびる後光の数が8本か6本かといったわずかな違いを知っていないと判断できません。
実際に、お葬式のときにお坊さんが「南無阿弥陀仏」と念仏を唱え始めたところ、「うちは真言宗だ」と親戚が怒り始めたという事例も実際にあります。
ですから、葬儀や法事を行うにあたって、故人の宗派がよく分からないときには、親戚の年配者などに確認をすることが大切です。